経営者が知っておきたい豆知識。 (第30回 生命保険金と税金の落とし穴)
■ 生命保険金と税金の落とし穴
生命保険金と税金の落とし穴~相続人ではない者を受取人にした場合のリスクと判例・税法の確認
生命保険は相続対策として広く利用されていますが、受取人の設定を誤ると、想定外の税負担や相続トラブルを招くことがあります。
特に注意すべきなのが、孫など、相続人ではない者を受取人に指定する場合です。
例えば、祖父が契約者・被保険者となり、生命保険金の受取人を孫に指定していたケースを考えます。
この場合、孫が受け取る保険金は、祖父から生前に贈与されたものではなく、相続税法上は「みなし相続財産」として扱われます。
相続税法第3条では、被相続人の死亡により取得する生命保険金等について、相続または遺贈により取得したものとみなす旨が定められているためです。
ここでいう「遺贈」とは、遺言などにより相続人以外の人が財産を受け取る場合の考え方です。
生命保険金そのものが遺贈になるわけではありませんが、相続人ではない者が死亡保険金を取得する場合、税務上は「遺贈により取得した場合」と同様に取り扱われます。
そのため、「相続人ではないから相続税は関係ない」と考えるのは誤りです。
また、生命保険金の課税関係は、被保険者、保険料負担者、保険金受取人の関係によって、所得税・相続税・贈与税のいずれかに分かれます。
被相続人が保険料を負担し、その死亡により受取人が保険金を取得する場合は、相続税の対象となります。さらに重要なのが、生前贈与加算の問題です。
相続または遺贈により財産を取得した者については、被相続人から死亡前一定期間内に受けた贈与が相続財産に加算されます。
令和5年度税制改正により、この加算期間は段階的に延長され相続開始時期によっては最大7年となります。
したがって、孫など相続人ではない者が生命保険金を受け取る場合、過去の贈与も含めて課税対象が広がる可能性があります。
一方で、生命保険には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。
しかし、この非課税枠を使えるのは相続人が受取人である場合に限られます。
相続人ではない孫などが受取人となる場合、この非課税枠は適用されません。
ここで押さえておきたいのが、生命保険金の法的性質に関する最高裁平成16年10月29日判決です。同判決では、生命保険金は原則として受取人固有の財産であり、相続財産そのものには含まれないと判断されています。
一方で、保険金額や取得者の状況などから相続人間に著しい不公平が生じるような特段の事情がある場合には、特別受益に準じて考慮される可能性があるとされています。
つまり、生命保険金は、民法上は受取人固有の財産である一方、税法上は相続税法第3条により、みなし相続財産として課税対象になるという二つの性質を持っています。
この違いを理解しないまま受取人を設定すると、税負担だけでなく、相続人間の不公平感や争いにつながることがあります。
■まとめ
生命保険は有効な相続対策となり得ますが、受取人の設定を誤ると、非課税枠が使えない、生前贈与加算の対象となる、みなし相続財産として課税されるといった不利な結果を招く可能性があります。
特に相続人ではない者を受取人とする場合には、税務上は遺贈と同様に扱われる点、生命保険金の非課税枠が使えない点、過去の贈与が加算対象になり得る点を十分に確認する必要があります。
生命保険は単なる節税商品ではなく、設計次第で効果とリスクが大きく変わる制度です。受取人の設定、保険料負担者、相続人との関係を整理したうえで、税務と法務の両面から慎重に活用することが重要です。