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経営者が知っておきたい豆知識。 (第28回 労務管理のトラブル事例編パート①)

見落とされがちな労務管理トラブル

〜「少しの慣習」が未払い賃金問題に発展するケース〜

中小企業の労務トラブルで近年特に多いのが、「悪意はないが結果として未払い賃金と判断されるケース」です。労働基準監督署の是正勧告や、退職者からの請求をきっかけに問題が顕在化することも少なくありません。ここでは、実際に相談が多い代表的な事例を紹介します。

 

事例1:休憩時間が「名目だけ」になっている

労働基準法では、6時間超の労働で45分、8時間超で1時間の休憩付与が義務付けられています。しかし現場では、

・電話番や来客対応で席を離れられない

・昼食をとりながら業務連絡を受けている

・休憩中も実質的に指示待ち状態

といったケースが多く見受けられます。このような状況では、たとえタイムカード上「休憩」となっていても、実態として労働と判断される可能性が高い点に注意が必要です。

特に少人数事業所や接客業では、「交代要員がいない」「忙しい時だけ」といった理由で休憩が曖昧になりがちですが、積み重なると未払い残業として遡及請求されるリスクがあります。

 

事例2:朝礼・ミーティングが勤務時間外扱い

「始業前に10分だけ」「全員集合が当たり前」という理由で、朝礼や清掃、点呼を勤務時間に含めていないケースも典型例です。業務連絡、指示、注意喚起、唱和などが含まれる朝礼は、原則として労働時間に該当します。たとえ短時間であっても、毎日積み重なれば月数時間の未払いとなり、是正対象となります。「参加は任意」「形式的な集まり」という説明がなされることもありますが、実際には参加しないと業務に支障が出る場合、任意性は否定されやすくなります。

 

事例3:着替え・準備時間が労働時間に含まれていない

制服や作業着の着用が義務付けられているにもかかわらず、着替え時間を労働時間に含めていないケースも注意が必要です。特に製造業、医療・介護、飲食業では問題になりやすいポイントです。会社が着用を指示している以上、業務遂行に不可欠な準備行為は労働時間と判断される可能性が高いとされています。

 

事例4:毎日軽めのサービス残業が常態化

最も多いのが、「11020分程度だから問題ない」と考えられているサービス残業です。

・定時後の片付け、日報作成

・引き継ぎや簡単な報告

・上司の指示待ち、問い合わせ対応

これらはすべて、会社の指示・管理下にある限り労働時間と判断されます。「自主的に残っている」「本人が早く終わらないだけ」といった説明は、実態が伴わなければ通用しません。特に注意すべきなのは、毎日少しずつ発生している点です。115分でも月20日で5時間となり、立派な未払い残業になります。

 

なぜトラブルに発展するのか

多くの企業では「昔からの慣習」「皆が納得している」という認識で運用されています。しかし、退職時や人間関係の悪化をきっかけに、従業員側が労基署や弁護士に相談し、初めて問題化するケースが大半です。

一度、未払い賃金があると判断されると、原則として賃金支払日の翌日から過去3年分について、遡って支払いを求められる可能性があります。これは、労働基準法第115条において賃金請求権の消滅時効が5年と規定されている一方で、同条附則により当分の間は3とする経過措置が設けられているためです。
この時効期間は、各賃金の支払日の翌日を起算点として進行します。

そのため、退職時や労働基準監督署の調査をきっかけとして、複数年分の未払い賃金が一括で請求されるケースも少なくありません。結果として、単なる金額負担にとどまらず、是正勧告への対応、対外的な評価への影響など、企業イメージの低下や経営者の心理的負担が大きくなる点にも注意が必要です。
なお、未払い賃金の請求権は、2019年以前は2年とされていましたが、202041日施行の法改正により3年へ延長されており、現在はこの3年という期間を前提に労務管理を行う必要があります。

 

実務的な対策ポイント

重要なのは「制度」よりも「実態」です。

・休憩時間中に業務対応が発生しない体制か

・朝礼や準備行為を労働時間に含めているか

・タイムカードと実態が乖離していないか

これらを定期的に見直し、就業規則・運用・現場の実態を一致させることが最大の防御策となります。

 

まとめ

労務トラブルの多くは、意図的な違反ではなく「慣習の放置」から生じます。短時間・少額であっても、積み重なれば大きなリスクとなります。問題が表面化する前に、第三者の視点で自社の労務運用を点検することが、結果的に企業と従業員双方を守ることにつながります。

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