経営者が知っておきたい豆知識。 (第23回 オーナー企業におけるホールディングス設立のメリット・デメリット編)
近年、事業承継や事業拡大を視野に入れたオーナー企業の経営者の間で「ホールディングス(持株会社、以下HD)設立」の関心が高まっています。HDは複数の子会社を統括し、経営管理機能を担う形態ですが、中堅・中小規模のオーナー企業にとっても有効な選択肢となり得ます。一方で、制度設計やコスト面の課題もあり、導入にあたっては慎重な検討が不可欠です。ここでは簡単にHD設立のメリット・デメリットを整理します。
■ HD設立の主なメリット
① 事業承継・資産承継の円滑化
オーナー企業にとって最大のテーマは「事業をいかに次世代へ引き継ぐか」です。HDを設立し、オーナーがその株式を保有する形を取れば、後継者へはHD株式を承継すればよく、個別子会社の株式を分散的に引き継ぐ必要がなくなります。結果として承継手続きが簡素化し、経営権の集中や争族リスクの回避につながります。
② 事業ポートフォリオ管理の柔軟化
例えば、製造・サービス・不動産など複数事業を展開する場合、HDが事業ごとに子会社を整理・統括することで、リスク分散や事業売却・新規参入の意思決定をスムーズに行えます。特に新規事業の立ち上げや撤退をスピーディに判断できる点は、成長機会を逃さないうえで有効です。
③ 税務上のメリット
連結納税制度(現・グループ通算制度)を活用すれば、グループ内の損益通算や内部取引の調整が可能となり、赤字子会社の損失を他の黒字子会社の利益と相殺することで、グループ全体としての税負担を平準化できます。さらに、グループ法人税制における配当の益金不算入制度を利用することで、グループ内配当について二重課税を回避し、課税負担を軽減することが可能です。
④ 経営管理機能の強化
HDを通じてグループ全体のガバナンスを効かせやすくなります。財務管理、人材配置、内部監査などを本社機能としてHDに集約することで、グループ経営の一体性が高まります。特にオーナーの意思を全体に浸透させやすくなる点は、スピーディな意思決定を求められる中小企業において重要です。
■ HD設立の主なデメリット
① 設立・維持コストの増加
HDを新たに設立する場合、設立費用や子会社株式の移転費用が発生します。また、HD自体の決算・申告が必要になり、グループ全体の経理・税務対応が複雑化します。特に規模の小さい企業にとっては、専門人材や顧問料など維持コストが無視できない負担となります。
② ガバナンスと権限配分の難しさ
HDが統制を強めすぎると、子会社経営の自主性が損なわれ、現場のスピード感が低下するリスクがあります。逆に統制が弱いとHDの存在意義が薄れます。権限と責任のバランス設計が不十分だと、グループ全体の効率化どころか摩擦や停滞を生みかねません。
③ 税制メリットの限定性
制度上は税務メリットがあるものの、実際には適用条件が厳しかったり、税務調査で否認リスクがあったりします。また、赤字子会社が少ない場合や事業規模が限定的な場合は効果が薄く、費用対効果が見合わないケースも少なくありません。
④ 外部への印象や信用リスク
取引先や金融機関によっては、HD体制への移行を「複雑化」「不透明化」と受け止める場合もあります。財務情報が分散し、個社単位での収益状況が見えにくくなるため、開示・説明責任をどう果たすかも課題となります。
■ 導入を検討する際のポイント
オーナー企業がHD設立を検討する際には、以下が重要です。
① 事業承継目的か、事業拡大目的かを明確化すること
② 税務効果とコストのシミュレーションを事前に行うこと
③ HDと子会社の役割分担・権限設計を制度化すること
これらを踏まえ、外部の専門家(税理士・弁護士・コンサルタント)と協働し、目的に合ったHDスキームを構築することが望まれます。
■ まとめ
HD設立は、オーナー企業にとって事業承継や成長戦略を実現する有力な手段です。ただし、設立・維持コストやガバナンス設計の難しさといったデメリットも存在します。目的と実効性を見極め、専門家の助言を得ながら進めることが望ましいかと思います。